2020年10月23日
水分解
水の電気分解は中学生でも知っている酸化還元反応の一つであり,電解質を添加した水に電圧を印加してカソードで水素が,アノードで酸素が生成される反応である。光触媒を用いた水分解でも同様に,光吸収によって生じた正孔と励起電子がそれぞれ水を酸化・還元し,水素と酸素が生成される。この時必要な電圧は1.23 Vであり(実際には水素化電圧のためにより大きな電圧が必要になる),光の波長に変換するとおよそ1000 nmに相当する。つまり理論上は1000 nmよりも短波長の光であれば水を分解するのに必要なエネルギーを持つことになる。しかし,水分解の電位に適したエネルギー構造を持つ光触媒がない,比較的長波長の光を吸収できる光触媒は純水中での光照射に対して不安定であるなどの問題があり,実際に1000 nmまでの光を全て有効活用することは非常に難しい。光触媒を用いた水分解は,太陽光のエネルギーで水素を生成することができ,夢のような化学反応ではあるが,1972年に藤嶋らによって発見されてから(A. Fujishima et al., Nature, 1972, 238, 37-38.) 現在に至るまで実用化されていない。